資本主義市場は厳しい

飢えたサメ

俺たちは飢えたサメだ、と自分では思っている。お金が必要分に足りない、という事実に直面し続けると、なんだかいつも飢える感じがするのだ。なるほど、これがハングリーということかと実感する。

人間の生命力は思ったより高い。僕は大学1年の頃、貧乏すぎて毎日そうめんを茹でて食べていたのだが、1日1食これだけでも人間割となんとかなる。あとで知ったが生活保護の適用者よりひどい生活だったらしい。学生はみな貧乏なのだ。

仕事の話に戻ろう。僕たちの最初の大型案件は入札の仕事だった。業務内容としては導入済のPHPウェブサイトの運用保守だ。

官公庁の入札、とくにIT系には複雑な事情がある。官公庁は新たにシステムを導入するとき、入札で参加者を募集する。その入札で仕事を勝ち取った業者がシステムを作る。一旦作ったシステムは、基本的には作った業者以外は保守できない。他の業者は、ソースコードが手元にないので一から作り直す以外にない。採算が合わないから入札には参加できない。これがベンダーロックインと呼ばれるやり方だ。

ただし、この手法には弱点がある。それは、「ソースコードを納品してしまうと、参入障壁が機能しないこと」だ。僕たちはそこを突いた。

僕たちは他の業者から保守業務を奪った。システムの導入後8年目だったらしい。深い理由はない。なんとなく自分でも出来そうだから応募してみた。そして上手くいった。税込で90万円くらいが一気に手に入った。官公庁も、僕たちの出した値段が競合他社よりも安かったから契約してくれた。

僕たちの会社は、初年の決算で100万円以上赤字を計上した。「今年仕事が取れなかったら廃業しよう」と思っていた矢先の出来事だった。学生で100万円の赤字は到底リカバリー出来る数字ではない。それを神様が見ていて、手心を加えてくれたのかもしれない。どっちにしても、間一髪、この仕事を取れたおかげで廃業は免れた。

システムのベンダーからすれば、晴天の霹靂だっただろう。何せ、赤字を掘って受注したシステムが、保守の仕事で黒字化していく見込みだったのに、その算段が狂った。どこからともなく現れたサメに仕事を奪われたのだ。

仕事を奪われた業者はかわいそうだ。でも僕たちも必死だった。ベンダーよりも、他のどの業者よりも仕事が欲しかった。

普通は他社製システムの運用保守なんてやりたくない。誰が見てもリスクしかないからだ。

・システムがクソコードだったら?
・Windows ServerがCUIエディションだったら?
・IISでもnginxでもApacheでもないファイル公開方式だったら?
・サーバのパスワードを教えてもらえなかったら?

最初、契約が決まったとき、こんなリスクが頭をよぎった(最終的にはそんなことなかったのだが)。そんな仕事でも引き受けるくらい僕たちは追い詰められていた。申し訳ないとは思う。だけど、僕たちは間違いなく相手より切羽詰まっていたのだ。


資本主義市場は厳しい

起業というのは思ったよりも厳しい。お客さんに金を払っていただくのは大変なのだ。商品を買ってもらうのはもっと難しい。

そもそも君の商品は要らないよ、というのがスタートである。僕は40個以上プロダクトを作ったが、ほとんど売れなかった。むしろ最初からバカ売れする製品を作れたなら、商売の才能がありすぎだと思う。正直うらやましい。

市場で大きな利益を上げるのは、誰でもできることじゃない。資本主義のマーケットには色々な欲望が渦巻いている。その環境で利益を出し続けるという行為は、もはや狂気に近いといって良いだろう。

資本主義の基本的なルールは「契約自由」だ。そして経営者にのしかかるのは、粗野な言葉で言うと「人の役に立てないやつは死ね」というプレッシャーだ。経営者はいつもこのプレッシャーと闘い、打ち勝っているのだ。社会は暖かいが、資本主義市場は厳しい。


君には才能がある

いまの若い人は、給与をもらって働くという行為に甘えすぎだと思う。そもそもなんで給与がもらえるのかといえば働く人が給与以上に働くからである。若い人は今よりも、もっとたくさん利益を生んで、もっとたくさん給与をもらうべきだと思う。

就業体験としてのアルバイトを否定するつもりは勿論ない。だけど、雇う方と雇われる方が互いに納得いく金額が払えないなら、人を雇うのはやめた方がいいと思う。事業主として取引しあった方がお互いに時間や労働条件も交渉できる。

社会に出始めた頃は、経験が浅いからアルバイトから始めるのはいいと思う。たぶん自由契約で仕事を始めたら、最初から騙されるから。でもそういう段階を乗り越えたら、もっと一生懸命勉強して、もっとたくさん社会の役に立つという志を持った若者がもっと出てきてもいいと思っている。「言われた分だけ頑張ればいい」なんてもったいないと思う。

資本主義のマーケットに参加するということは、快適なヒツジをやめて、飢えたサメになるということだ。油断すれば自分が食われる。しかし、そういう環境に身を置いて勝ち続けたサメはどこに行っても生きていけると思う。

別に金儲けをしろ、とは言わないし、思わない。ただ、自分に才能があると思うなら、もっと必死に働くべきだ。もっと成長してどんどん人に貢献すべきだ。自分もそういう才能あるサメと一緒に働きたい。

投稿日:
カテゴリー: 経営

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です