見て盗む

古の遺産

古の産物に「見て盗む」という修行方法があります。

見て盗む、この修行方法には非効率な部分も多く、今や過去の教え方だとする意見もあります。会社員は職人ではなく、作業の再現性が重視されますから、たしかに会社の中ではその考えは正しいのかもしれません。

しかし、バトルの範囲が変わっただけで、経営者・営業同士のバトルの土俵では、僕は未だにこの「見て盗む」という考え方が有効ではないかと思います。


どうやって技術を身に付けたか

そう思ったきっかけは、僕が今の技術を身に付けた方法です。

僕はIT業界に身を置いて8年になりますが、思えば誰かに仕事を教わったわけではないです。最初はゲームが作りたくて、図書館で本を借りて書かれている通りにサンプルを改造したり、本のプログラムを写経したりと、色々いじくり回しているうちにC#が書けるようになりました

それから、たまたま人づてでPythonの仕事が回ってきたので、Pythonも勉強しました。人の書いたコードも見ました。他のプログラマがYouTubeでライブコーディングしている動画も見ました。

プログラマが何を考えているのか、どうやってその着想に至ったのか一生懸命観察したのです。

そして、大学1年になり、立ち上げ初期のIT系サークルに入部したとき、先輩のリファクタリングやGitHubの使い方を教えてもらい、僕はプログラミングのコツを学びました。

(いま思えば、大学4年にして独学でそこまでの知識を身に付けた先輩はそもそもすごいと思うのですが、とりあえず当時はそのすごさが分からず過小評価していました。すみません)

自分が大学3年になり、個人事業主として、プログラミングで何件か仕事を受けつつ客先のプログラマを観察し、分からないところを教えてもらいました。そこでエラー解決の勘所を学びました。また、設計上の概念やCI/CD、DB設計をマスターし、プログラミングに開眼しました。プログラミング歴7年目のことでした。

ここで言う開眼がどういう状態かというと、エラーの内容を聞けば大体の原因が分かり、切り分け手順を挙げればほぼ間違いなく問題が解決するといった具合です。要は、工数上問題が無ければどんな仕様でも実現できる状態です。

何故なら、どんなケースでも過去に経験した引き出しを掘り返せば大体解決の糸口がつかめたからです。

プログラミングの本質は、if文とfor文です。他にもっと大事なのが、エラー解決力、すなわちググり力です。

ほかに仕事で家具の塗装職人さんの話を聞く機会があり、ベテランと素人は何が違うのかと尋ねてみました。すると「勘所だね。(他社で断られた難しい)素材を見たときに、何となく塗れない原因とどうやって塗れば上手く行くか分かる」と言っていました。

塗装職人とプログラマ、この2つは一見まったく異なります。しかし、両者の本質は一緒です。すなわち、ベテランと素人の違いはエラー解決力であるというのが熟練の本質だということです。


それでも、見て盗むのだ

たしかに手っ取り早く、知識ややり方を身に付けるには、言葉で教えることが効果的です。経験も聞けば身につきます。

しかし、そもそもどうやって問題を定義したら良いのか、課題解決の勘所は何かということは誰も教えてくれません。

勘は膨大な経験によって養われます。同じ勘所を得るために必要な経験は多すぎるし、そもそも人によって持っている経験が違うので「勘」は教えようがありません。それらを会得するためには、自分でやってみて、自分なりのコツに気付く必要があります。


「寿司職人」になるための修行は必要ありませんが、寿司職人として独立するためには修行が必要です。また、誰も作ったことのない寿司を握る場合にも研鑽が必要ではないかと思います。

もし誰もが1日で「寿司職人」になれるなら、「教授」にも1日でなれます。でも世の中はそうなっていませんよね。

これは何故かというと、そもそも理論の欠陥に気付くのにも、その欠陥を埋める考え方に気付くのにも膨大な経験や知識を基にした「勘」が必要だからです。

そういう意味で、見て盗むことは技術畑においては有効だと思います。


教えてもらえない知識

技術の話をしましたが、営業の場合は別の事情で教えてもらえない知識があります。企業のリソースです。

端的に言えば、営業ノウハウです。会社の営業マニュアルは絶対に外部には出回りません。

実は、直接教えてもらうことは出来ませんが、競合他社の営業ノウハウは盗むことが出来ます。顧客として製品を何回も買って、仕事のやり方で良いと感じたところを真似する、つまり見て盗むというやり方があります。この辺は学生の得意分野かもしれません。


あとは、会社の立ち上げ期の頃、僕はサーバや業務用スイッチの仕入れ先ベンダーを知りませんでした。

そういうときは、サーバ室や客先にある競合他社の製品を写真で全部写して持ち帰り、分析していました。(官公庁の場合は大体同一の電算室に、異なるシステムベンダーの機器がまとめて設置されます。持ち帰って無断でネットに上げると契約違反ですが、サービス改善のために自社で分析する分なら問題ありません)

あんまり大っぴらには言えませんが、こうやって技術も見て盗むということをしていました。


逆に、自社のノウハウが盗まれることもあります。でも、目に見えるものは、どうやったって盗まれるのです。そこはお相子です。

競合の真似をして競争相手を全力で叩き潰してきた、かのWindowsでさえ、逆コンパイルでソースコードが全部解析されています。訴訟を起こせば解析内容が正しいことを認めることになりますから、法に訴えることは出来ません。

土俵こそ変わりましたが、見て盗むという技術はやはり今でも有効なのです。

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カテゴリー: 技術

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